直線を曲線に

口論まではいかないけれど、遊びに行った九州で、とある人たちと少し強い口調で話し合いをした。(正確に言うと、ほとんどわたしが強い口調で、相手は終始冷静だった)

様々な角度から状況を確認する限り、ある人の言うことは本当じゃないと思ったのがその口論のきっかけだった。口論の相手は「でも、彼女たちはそう言っているのだから本当でしょう」と静かな口調で言う。わたしは「状況からしてそんなことはあり得ない」と、少し語気を強めて言う。

そういうやりとりを複数回したあとに、彼女は静かな口調のまま「あのね、状況がどうであっても、本人たちがそうだと言っていることを信じてあげないでどうするの。“本当じゃない”なんて言っちゃいけないと思うよ」と言った。彼女の言葉を聞いた瞬間、わたしは自分自身の軽率さと未熟を恥ずかしく思った。口論の相手も、“本当じゃない”事を話している渦中の人たちも、事をこれ以上悪化させないために、彼女たちなりの最善を尽くしているのだと思った。


「事実や正しさを追求する事」が「周囲にいる人たちの最大限の幸せに繋がる」とは限らない。わたしはすぐに自分のことで手一杯になってしまい、簡単にその事を忘れてしまう。もちろん事実や正しさが必要な場面も多くある。が、状況に応じて「最善は何か」を柔軟に考える(それは、時に直線を曲線に変形させるような)姿勢を持ち続けたいと願う。そして、厳しい状況にあっても日常生活 −仕事をして、食事を摂り、誰かとの些細なやりとりで腹を立てたり笑ったりする− を淡々と続けていくことのできる人間になりたい。



また、別の場面で、九州の親戚がわたしの娘に「ねえ娘ちゃん、大人になってもし気が向いたらうちで働きなよ。忙しいけどさ」と言った。(親戚は、支援を必要とする子どもたちが滞在する施設の所長を務めている)娘はそっけなくiPadなどをいじりながら「選択肢の一つとして検討しておきます」などと言う。親戚はそんな娘を見つめ、気持ち苦笑いをしながら独り言のように「わたしもあなたもさ、ひとが“やらなくても良い”と思っている事をやってしまう種類の人間なのよね」と呟く。

親戚は、わたしが子どもの頃からずっと誰かしらの世話をしている。自分の子どもたち、そしてわたし(子どもの頃の数年間、九州の親戚の家でわたしは育っている)、親の介護、仕事上で関わる支援の必要な子どもたち、そして今は自分の孫たちもだ。

もしかしたら、その言葉はわたしにも向けられていたのかもしれない。それは半分あきらめのようであり、半分は自分自身を奮い立たせるための言葉であったのかもしれないと思う。「ひとが“やらなくても良い”と思っている事をやってしまう」。それはときに周囲から反発を受けるかもしれない、異端扱いを受けるかもしれない。それでも良いじゃないかと思う。わたしたちはきっと、そういうふうにしか生きられない種類の人間なのだ。部分的に切り取ると損をしているような場面もあるかもしれない。でもそんな生き方も悪くないと思う。こういう種類の人間には、こういう種類の人間なりの生き方がきっとある。そんなに生き易くはないけれど、わたしはこういう種類の人間に生まれて良かったな、と今は思っている(まあ、時々苦しくなる事はあるけれどね)。




ヘッダーの画像は、この夏に足を運んだ、熊本県南阿蘇村にある白川水源の画像です。中央にひときわ青い部分が見えますが、そこから水がこんこんと湧き出ています。白川水源で湧き出る水量は毎分60トンで、水温はおよそ14度。ほとんど氷のように感じられます。最後に白川水源に行ったのは20年ほど前になりますが、息を呑むほどの透明度は今も変わらず、とても美味しい水でした(白川水源の水は入場料100円で、自由に飲んだり持ち帰ったりすることができます)。変化や発展はもちろん大切ですが、この水源のように、ずっと変わらない場所も世界には必要なのではないかと思っています。

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進月

悲しい気持ちの時は、二進数や円周率を眺めると気持ちが和らぐ中年女性

その他エッセイなど

つらつらと思ったことや感じたことを文章や写真に。

コメント4件

言って気付いたから価値があるのだと思うし、後になって「ほら、あの時わたしは気付いていたんだよねー」とかってのは、、 僕なら飲み込めるか自信ないな。
直線を曲線に。すごく素敵な考え方だなと思いました。私も時として、何が正しいか、事実を優先させてしまうことがありますが、何が最善か。本当にそうですね。
そして、素晴らしい夏休みをお過ごしなんですね!酷暑の中、冷たい水源地で過ごされて、リフレッシュできたのでは…!
あぎさん わたしは喉元過ぎるとすぐ忘れるたちなので、今回気づいたことを忘れたくないなと思って文章に残しました。なんだか、生きていると恥ずかしいことだらけです(それでも生きていきたいと思います)。
つぶまるさん ありがとうございます。ちょっと日程をずらして休暇を取ったので今日からまた仕事再開なのですが、休暇中は自然の中で過ごしてエネルギーを補給できました。白川水源は地震の影響や体調の問題もあってなかなか足を運ぶタイミングに恵まれなかったのですが、今回ようやく行く事ができて嬉しかったです。
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