おすすめノート2

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【短編】ヨハンとアデルの朝

早朝の広場で青果店の店主が腰を抜かしたとき、ヨハンとアデルはまだ目を覚ましていなかった。

青果店の店主は自分の店に向かっている途中だった。広場を横切って、アパートがひんやりと湿った影を落とす細い道を抜け、大通りを渡ったところに彼の店はあった。軒先に染みだらけの赤い幌が張ってある、街でいちばん古い青果店だった。その老人は、広場の中心を示す大きな楓の木に向かい合う形で、長椅子に浅く腰掛け、黒いステッ

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良い日でありますように。
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蜘蛛の糸【小説。昔話風】

三十人ほどが暮らす山間の小さな集落に、投資家と名乗る奇妙な男が現れたのは、もう日も沈もうとしている頃だった。耳が腐るほど聞いた、再開発の話だ。村落のインフラは老朽化している。村の自然エネルギーを電力に変え、更には景観を整備して観光資材にし、得られた資金で村の財政を賄おうという話だった。男の話は横文字が多く、何を言っているか要領を得なかった。
 村の人間にとっても悪い話ではない。月々このような収入が

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読んでくれてありがとう🐧🌠
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写真と文学が結びつく場所(あるいは、僕にとっての「コンブレーのマドレーヌ」)

昨日の夜、ちょっと今年の写真を振り返る必要があって、この夏の写真を見返したら、案の定花火ばかりでした。僕が写真を撮る意味と目的の原点は地元の花火と桜だから、そうなるのも仕方ないんですけれどね。

何度か同じことを書いているんですが、僕は地元のとても大きな花火大会を、小学校の時に第一回大会を見て以来、ずっと見続けています。一回目に見た時の記憶は僕の人生の原体験の一つで、僕にとっては人生の最も暖かい記

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お暇なとき、またのぞきに来てくださいね
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【スト筋】第一投第一回【左列グループ】

お前そういうやつだったのか

「先輩、俺、あいつに磁力を感じるんです。本当にこれは磁力としか言いようがない」

 堺が、ふと不思議なことを言う。やつの視線の先には可憐な女子がひとり。

「それって恋とかそういうヤツか?」

「まさか。あれ、ああ見えて男ですよ。俺ストレートですもん」

「えっ」

「えっ」

 いやまあ、それはいいんだ。……いいのか?

「あれ、余計なこと言いました?」

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水の発言

音を立ててパイプ椅子から立ち上がっての第一声は意外に印象の薄い声だった。

「こんにちは、初めまして。水と申します。あ、みなさんもうご存知ですよね。だから初めましてっていうのも変なんですけど...」

周囲がもう少し驚くと思っていたのかも知れない。それに反して多分、思ったような反応ではなかったのだろう、水はちょっと恥ずかしそうに下を向いた。

「いま、私はみなさんとお話をするためにこのかたちをして

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ありがとうございます。好物は「源氏パイ」です。
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